甲状腺の病気について
甲状腺の異常や障害により発生する病気の総称が甲状腺疾患です。甲状腺疾患は大きく二つに分類することができます。一つは甲状腺ホルモン分泌に異常を来す疾患(甲状腺機能異常)、もう一つは甲状腺にしこりができる疾患(結節性甲状腺腫)です。両方が同時に発症する場合もあります。甲状腺機能異常には甲状腺ホルモンの分泌過剰による甲状腺機能亢進症、分泌不全による甲状腺機能低下症などがあります。結節性甲状腺腫には、甲状腺の良性・悪性腫瘍などが含まれます。
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甲状腺は喉ぼとけの下あたりに存在し、正面から見ると蝶が羽を広げたような形をしています。甲状腺は左右に分かれて存在していますが、原則として中央でつながっていますので、一つの臓器と考えます(二つあるわけではありません)。甲状腺からはホルモンが分泌されています。このホルモンは体の発達や代謝に関わっていて、人間が生きていくためには不可欠です。
甲状腺の異常や障害により発生する病気の総称が甲状腺疾患です。甲状腺疾患は大きく二つに分類することができます。一つは甲状腺ホルモン分泌に異常を来す疾患(甲状腺機能異常)、もう一つは甲状腺にしこりができる疾患(結節性甲状腺腫)です。両方が同時に発症する場合もあります。甲状腺機能異常には甲状腺ホルモンの分泌過剰による甲状腺機能亢進症、分泌不全による甲状腺機能低下症などがあります。結節性甲状腺腫には、甲状腺の良性・悪性腫瘍などが含まれます。
甲状腺ホルモンの合成・分泌が過剰になる機能亢進症と、低下する機能低下症とでは、症状に大きな違いがあります。甲状腺ホルモンが過剰になると、動悸がする、汗をかきやすい、息切れ、筋力低下、下痢、体重減少などの症状が現れます。代表的な病気はバセドウ病です。一方、甲状腺ホルモンが低下した場合は、疲れやすい、だるい、むくみ、便秘、無気力、眠気、体重増加などの症状が現れます。代表的な病気は橋本病(慢性甲状腺炎)です。
診断方法ですが、問診、触診、血液を採取しての甲状腺ホルモン検査・甲状腺自己抗体検査、超音波検査などが行われます。
橋本病は甲状腺に慢性的な炎症が起きる病気で、慢性甲状腺炎とも呼ばれています。甲状腺機能低下症の原因となりますが、すべての患者さんが機能低下症になるわけではありません。橋本病は、甲状腺の腫大および甲状腺自己抗体(抗サイログロブリン抗体:TgAb、抗TPO抗体:TPOAb)の両者あるいはどちらかが高値であることによって診断します。したがって、甲状腺機能に異常があるかどうかは、橋本病の診断には必須ではありません。つまり、甲状腺機能正常の橋本病もあり、むしろそのような患者さんのほうが多いというのが現状です。甲状腺機能が正常の場合には症状は出現せず、治療の必要もありません。甲状腺機能が低下すると、疲れやすい、だるい、寒がり、むくみ、皮膚の乾燥、便秘、無気力、眠気、体重増加、抜け毛、声のかすれなどの症状が出現し、血液検査ではコレステロール値の上昇が見られます。そのような場合には治療が必要であり、甲状腺ホルモン剤を服用してホルモンの補充を行います。また、ヨウ素の摂取には注意が必要です。ヨウ素は甲状腺ホルモンの原料となるものですが、摂取しすぎると甲状腺ホルモンの分泌を抑制してしまいます。ヨウ素を多く含む海苔やわかめなどの海藻類を過剰に摂取すると、甲状腺機能低下症の原因となる場合があります。特に昆布には多量のヨウ素が含まれているので、過剰に摂取することは避けたほうがいいでしょう。
バセドウ病は、甲状腺に対する自己抗体(抗TSH受容体抗体:TRAb)が出現し、それが甲状腺を刺激することによって甲状腺ホルモンの分泌が過剰となる病気です。甲状腺の腫大、頻脈、動悸、手指の震え、食べてもやせる、息切れ、下痢、周期性四肢麻痺(手足に力が入らない)などの症状が現れます。眼球突出が見られることもあります。甲状腺ホルモン過剰な状態が続いた場合、心臓に負担がかかって不整脈が起こりやすくなり、心不全に至る場合もあります。
治療方法は、甲状腺の働きを抑制する薬(抗甲状腺薬)の服用が第一選択です。抗甲状腺薬には、白血球減少症や肝機能障害など、重篤な副作用が起こる場合があるので注意が必要です。内服治療で軽快しない場合や早期の寛解を希望する場合などには、放射線ヨウ素による治療や手術療法が行われます。
バセドウ病と区別しなければならない重要な病気の一つが無痛性甲状腺炎です。無痛性甲状腺炎は、甲状腺内に蓄えられている甲状腺ホルモンが何らかの原因で血液中に漏れ出し、一時的に甲状腺ホルモンが過剰になる病気です。ホルモン合成が活発になっているわけではないので、この場合は甲状腺機能亢進症ではなく、破壊性甲状腺中毒症と呼ばれます。自然に良くなる病気ですので特に治療の必要はありませんが、甲状腺ホルモン過剰による症状が明らかなときは、脈を抑える薬を使用する場合があります。間違ってバセドウ病と診断され、抗甲状腺薬が処方されてしまうことがあるため、鑑別診断をきちんと行うことが重要です。
甲状腺に結節(しこり)ができる病気のことを、結節性甲状腺腫と総称します。結節性甲状腺腫には、良性と悪性とが存在します。
良性結節で最も多いのは腺腫様甲状腺腫(腺腫様結節)であり、次に多いのが濾胞腺腫です。悪性腫瘍には、乳頭がん、濾胞がん、髄様がん、低分化がん、未分化がん、リンパ腫などの種類があります。最も多いのが乳頭がんであり、甲状腺悪性腫瘍の約90%を占めます。このような結節が発生する原因の多くは不明ですが、一部で放射線の影響や遺伝子異常が原因として考えられています。甲状腺にしこりができた場合、首が腫れる、首の圧迫感、ものが飲み込みにくい、声がかすれる、といった症状が現れます。
結節性甲状腺腫の診断ですが、まず触診によって固さや大きさ、可動性、痛みの有無などを調べます。次に超音波検査(エコー検査)を行い、どのような結節なのかを評価します。場合によってはCT検査やシンチグラフィーなどの検査、病変部位からの細胞採取による病理検査(穿刺吸引細胞診)が行われます。
副甲状腺は、上皮小体とも呼ばれ、甲状腺の左右と上下に2対、合計4個存在する米粒ほどの大きさの臓器です。名前は副甲状腺ですが、甲状腺とは全く別の臓器になります。副甲状腺はホルモンを分泌し、カルシウムの代謝に重要な役割を果たしています。カルシウムは骨や歯を構成する以外にも、筋肉の収縮や血液の凝固、細胞の働きなどにとって、欠かすことのできないミネラル成分です。副甲状腺ホルモンは主に骨や腎臓に作用し、血液中のカルシウム濃度を一定に保っています。
副甲状腺疾患で最も多いのは、副甲状腺ホルモンが過剰に分泌される病気です。
副甲状腺が腫大してホルモンが過剰に分泌されると、血液中のカルシウム濃度が必要以上に高くなります。代表的な疾患は、原発性副甲状腺機能亢進症です。原発性とは、副甲状腺そのものに原因がある、という意味です。骨粗鬆症、尿路結石の原因となる以外にも、物忘れ、うつ状態、無気力などの精神症状、口渇、多飲、多尿、食欲低下、悪心、心電図異常、筋力低下など、多彩な症状を引き起こします。血液検査では副甲状腺ホルモン値が高くなり、カルシウムが高値、リンが低値となります。軽症の場合は、カルシウム濃度が正常のこともあります。尿検査で、尿中カルシウム排泄の程度を確認することも重要です。腫大した副甲状腺を見つけるために、超音波検査(エコー検査)、副甲状腺シンチグラフィー、CT検査が行われます。
副甲状腺自体ではなく、慢性腎臓病、ビタミンD欠乏症などの病気が原因で、副甲状腺ホルモンの過剰分泌が起こる疾患を、二次性(続発性)副甲状腺機能亢進症といいます。慢性腎臓病では、血液中のカルシウム濃度が低下し、副甲状腺が刺激されることで副甲状腺ホルモンの過剰分泌を促します。骨粗鬆症の他に、カルシウムの沈着による動脈硬化、心臓弁膜症などの病気を引き起こします。原発性と同様に、診断のためには副甲状腺ホルモン、カルシウム、リン濃度の測定が行われます。一方、近年ビタミンD欠乏症が増加していると言われています。ビタミンD欠乏症の場合も副甲状腺ホルモン値の上昇を認めることがありますが、カルシウム値は正常~低値となります。
治療方法は、原発性の場合には腫大した副甲状腺の摘出が基本となります。二次性の中でも腎臓病が原因である場合は、カルシウム製剤やビタミンD製剤、副甲状腺ホルモン分泌を抑える内服薬、薬物治療で効果がなければ手術が考慮されます。
副甲状腺に液体の貯留する袋状のものができる病気があり、副甲状腺のう胞と呼ばれています。副甲状腺機能に異常を来すことはありません。超音波検査(エコー検査)でのう胞の位置を確認して内容を穿刺すると、ほぼ無色透明のさらさらな液体が吸引されるのが特徴です。原則として治療の必要はありませんが、大きく目立つ場合は手術を行う場合もあります。